本書は、1930年～1945年の日本における総力戦体制について、京都府竹野郡木津村（当時）の視点から考察したもの。木津村を選んだのは、著者の務める大学に近いこともあったのかもしれないが、何よりも「木津村誌」「木津村報」そして、村に関する兵事文書（兵事史料）がある程度まとまって残されていたからであろう。兵事文書とは、「兵事に関わる公文書」のことで、「徴兵検査による壮丁の兵種区分と現役兵の徴集、在郷軍人を軍隊に呼び出す招集」など軍事関係の多岐にわたる関係文書のこと。ただ、1945年8月14日以降、焼却命令が出たため、一部の事務担当者たちが様々な思いゆえに自宅などに保管したものだけが現存し、まとまって残っているものは少ない。
序章にも書かれているが、1935年の国勢調査によると、木津村は296戸、1701人。この村の歴史について兵事を中心に、昭和金融恐慌・昭和恐慌からの回復を目指した「経済更生運動」の実態、「村報」を通じて伝えられた報徳精神などを辿り、当時の木津村がどのように総力戦体制に組み込まれていったかを明らかにしている。兵事はともかく、「経済更生運動」には村の自治も反映した部分があること、それが1937年辺り以降、戦時体制が逼迫し、自治が「窒息」させられていったことなどがよく分かる。「村報」に徴兵検査の結果が詳細に掲載されたケースが紹介されているが、不合格者も含め一部の人には心理的な圧迫になったのではと想像ができる。戦争末期、当時の国家は、「国体護持」のために国民を「自覚セル服従」の状態に置こうとしていたようだ。ほかにも、ドラマや映画、小説などでは、ある意味退屈ゆえに描かれることのない当時の日常もある。一方で、極めてミクロな視点からの考察は、専門外の私には少々しんどい部分もある。それでも、全体像を映し出そうとする著者の丁寧な調査は素晴らしいと感嘆してしまう。
よく言われているように、戦前の日本は、ある日突然に戦争状態に入ったのではなく、徐々に準備が進み、気づいた時には後戻りできなかったということが、本書を読み終えると強く実感する。
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